児童館廃止条例になぜ反対をしたのか

ということについて、

なかなか一般の方には議論の経緯が伝わりにくいと思いますので、会派の統一見解を超えて自分本位になっている部分もあるかもしれませんが、私の思いを書きます。

長いですが、それでも書き足りません。お付き合いくだされば幸いです。

 

自公は前区政で児童館を全廃すると言っていた?という誤解

誤解をされている方が多いようですが、公明党議員団は、児童館全廃の方針は見直すよう、前区政でも求めてきました。

もっといえば、、、

前区政では、平成22年当時、新しい中野をつくる10ヵ年計画(第二次)において、小学生の居場所をキッズ・プラザに移行し、小学生と中高生も含めた子どもたちのための施設「U18プラザ」を9館作ることで児童館の再編計画としていました。

その後、U18プラザが3館作られたところで、U18プラザが区の当初考えていた方向とは違うということで平成28年に策定の10ヵ年計画(第3次)においてU18プラザを廃止するという見直しを行いました。

当時は保育園の待機児童が多く待機児対策が追い付かず大変な時であったため、U18の跡地は保育所や学童クラブすると明言し実行されました。ただし、この際、そのほかの児童館の在り方については(10ヵ年計画においても)明言されていなかったのです。

ここが、人によって大前提の違いがあるポイントです。

 

公明党議員団が求めてきたこと

私たち公明党議員団は、大前提がどうあれ、何とか児童館を(形は違ったとしても地域の子どもたちの施設として)存続させたいと願い、平成29年には会派内で「児童館についての検討プロジェクト」を立ち上げて調査・議論してきました。

そうしたなか、田中区政16年(平成14年~平成30年)の改革により財政基盤が整ってきたこと(※財政白書の図参照)や、子どもたちを取り巻く環境も大きく変化し、孤立育児や児童虐待・ネグレクト等新たな社会的課題がある中で、私たち公明党議員団はこれまでの方針をいったん立ち止まり見直すよう、田中(前)区長に迫りました。(平成30年2月の一般質問)

その際、区長は、

「(児童館の廃止の再検討について、確かに子育て家庭を取り巻く環境の変化や増加するニーズがある。) 児童館施設も含め、こうした増加する子育て支援の地域ニーズに対応する貴重な資源の活用を図りながら、子育て第一の地域づくりを目指していきたい

とこたえました。

私たちは、訴えの甲斐あって変化の手ごたえを感ました。

手ごたえとはつまり、児童館施設はすべて地域の子ども施設として残る、ということでした。

ちなみに、田中区政では子育て支援のソフト面のニーズに対応する施策を大きく展開していました。

例えば、平成27(2015)年より「産後ケア事業」を先駆的にスタートさせ、中野区の妊娠・出産・子育てトータルケア事業が国のモデルにもなりました。また、特別な支援が必要な子どもへの支援や障がいのある子どもの支援などを着実に推進してきました。

さらには、当時、東京都からの児童相談所機能の移管にいち早く手上げをしたのも中野区です。過去の児童虐待事案に心を痛めていた田中区長は、児童相談所は基礎自治体である特別区が行うべきと、先頭に立って求めてきたのです。そして児童館職員については、人事異動の際に、子育て家庭へのアウトリーチチームの中に入っていただくなどノウハウを活かす人事も行っていました。

                ▲基金残高と特別区債残高の推移 

             中野区の財政白書より 01_表紙 (tokyo-nakano.lg.jp)

 

児童館が政争の具に利用された

酒井区長はそういった状況・経緯は認識されていないのか、一切触れず、単純に、「現区政は児童館を全廃すると言っているが私は違う」「児童館を残します」と言って選挙を戦い、当選されました。「全部残します」ではなく、「ゼロにはしない」という意味だったようです。

児童館が選挙の政争の具とされたことは遺憾です。

 

困難を抱える子どもたちの拠り所となる支援ネットワークを築きたい

酒井区長当選後におけるこの3年間にも、さらなる社会的課題が出てきており、子育て環境は多くの支えが必要となっています。そのことからもっと身近に通うことのできる子育て支援施設(児童館)の重要性が増しています。

もちろん施設がありさえすればよいのではなく、困難を抱える家庭、子どもに寄り添えるソフト面の充実も必要です。「子どもの地域包括ケア」という大命題を解決するためにも、児童館をめぐっては抜本的な構造改革を行って、民間や地域の力をもっと生かすことで、キッズプラザに行けない子どもも、貧困やひとり親等の支援も大きく充実させていくことが重要と考えています。

むしろ、施設を改修するだけではなく、ネットワークの網の目を細かくして"切れ目のない支援"をしていくことが求められていると思います。

身近な場所に親子が安心して集える場所、子どもたちが通える場があれば、これまでの児童館という形にとらわれなくてもよいと思います。

今回の条例は、そういったソフト面がどう充実できるのか、民間や地域の子育て支援団体の力が生かせるのかどうか、まったく見えない中で決められてしまっていました。

地域の方たちも、「コロナ禍で唖然としているうちに事が運んでしまった」と嘆いています。せっかく子育て支援を頑張ってきた団体の方たちも、やる気を失いかけています。

ここがしっかりと議論されないまま、施設を集約して児童館を廃止にしてしまったならば、児童館が廃止となった地域の方たちは、喪失感を持つしかなくなります。

児童館の行政コストも議論してきました

児童館の職員の経験やノウハウは大切です。しかし、今年の決算特別委員会でも明らかになりましが、その児童館職員人件費に児童館コストの4分の3以上がかかっているのです。

児童館18館のコストは、全体で約7億9000万円です。

そのうち人件費として76.8%かかっています。(子ども文教決算分科会の答弁より) 

すなわち、職員67名(常勤58名・再任用9名)に対して年間約6億円の経費がかかっているのです。退職手当分も含めて年間の予算に乗せるため、一人あたり平均1,000万円前後の人件費がかかっているのです。

対する施設コストは、18館で約1億9,000万円です。

区は、「施設を減らさないと財政面から厳しい」と言われますが、施設数を半分にしてもを1億円も減らないのです。8分の1のコストしか減らない。施設数を減らすだけではほとんどコストは減らないと言っても過言ではありません。今回、職員は一切減らさず集約し、さらにそれでも回せない分は会計年度任用職員を増やすと言っているので逆にこれまでよりも人件費は増えると想定されます。

月曜日開館は私も提案してきました。そのようなサービスを若干良くするために、職員を残る児童館に集約するとのことですが、館数を減らす目的であるコスト削減もできないというのに、身近な施設が地域から消えてしまうことに、果たして区民の皆さまが納得するでしょうか。

区民の声ではなく、職員の声を聴いている?

しかし、本会議の賛成討論において、驚くことに、「児童館職員の現場からの声がこの計画に反映された」と言われていた議員がいました。

区民の声ではなく、職員の声を反映したのだそうです。

過去には保育園行政では、一部民営化して、預かり時間を長くするなど、直営では難しい区民サービスの拡充をしてきた改革の歴史があります。区の保育士さんは別の部署に異動があったりと辛かったとは思いますが、退職不補充という形で職を失うことは無かったのです。

ちなみにその時代は民間企業ではバブル崩壊で大変厳しく、退職不補充どころか早期退職・新卒採用無しの時代が続きました。さらに従業員の給与はカットされ、派遣社員が多くなり、業務の切り出しでアウトソーシングもたくさん行われました。

それでも懸命に派遣社員もアルバイトもコンプライアンスを学び、正職員と同じように指導・教育がなされてきました。(私の経験談)

区の職員は、民間と違い安定しているので一生懸命仕事をして当然ですが、何か直営の職員でなければ質が落ちるということを過剰に言う方たちがいますがどうなのでしょうか。直営の保育園や施設でも職員による驚くようなミスや事故事例を複数聞いたことがあります。一方、民間であっても地域に根差し様々な配慮をしながら業務をする事業者もたくさんあります。

 

もっと別角度からの議論が必要

今回議案に賛成した議員の意見を聞いていると、「できれば館数を減らしたくはなかったが、直営であるためには館数が減っても仕方ない」という意見が多いように感じました。しかし、もっと別角度からも議論し、方向性を見いだせないでしょうか。

逆に、すべてを民営化せずとも半分でも民間委託を行えば、施設数を減らさずに維持管理・運営ができ、施設改修費も出せるようになると思います。委託する場合の事業は、国からの補助金が見込めるものもあります。

現在、区民活動センターや高齢者会館も地域ごとに運営委員会に委託をしています。そのうえで職員の人数は以前の地域センター時代から大幅に削減して、現在はセンターに2名の職員と委託事業者の職員が混合して業務に当たっています。施設数を減らさずに、地域の力を生かした例です。

これこそ、将来にツケを回さないようにとの田中区政時代の大改革でした。(これらの改革で職員数を減らしたことで区職員の業務がひっ迫したなどと批判する人もいますが、もし、改革を推進していなかったなら、職員の数は膨大なままで中野区はすでに破綻していたと言えます)

こういった事を考えていけば、児童館だけが直営でないとダメだというのは違うのではないかと考えています。本当の意味での構造改革が必要です。

構造改革を先延ばしすれば、児童館コストはほとんど変わらないので、施設改修費も出せないと考えます。児童館職員はこれまでの経験を活かし、館長だけが残り、そのほかの職員はアウトリーチや児童相談所関連のお仕事等に回っていただく、またはサテライトの児童館を統括する職員だけが残り、民間等運営事業者に運営を委託するなどこともアリではないでしょうか。

他区では、児童館を一部民営化や指定管理にして、さらに子育て支援コーディネーターを民間委託し相談体制を強化・充実させている区もあります。

現状の中野区の児童館は区立とはいえ、私たちから言わせれば、子育て支援に関する民間の事業や団体を知らなさすぎて、コーディネートまで行うことができていない形です。児童館に遊びに来た児童の見守りだけをおこなっているのが現状です。本当の意味で、子どもと子育て家庭の地域包括ケア体制の中心となるような子ども施設へと大きく生まれ変わらせていくのは、今が最大のチャンスであると思っています。

だからこそ、もっと議論が必要です。地域の声を聴いていただくことが必要です。

9館という"館数ありき"、職員はそのままの"直営ありき"で進められたこの計画では、誰一人取り残さない支援の体制強化はできないと感じます。

その意味で、今回の児童館廃止条例には賛成できなかったということです。

この条例には、自民党・公明党・無所属の一部が反対をし、僅差で否決となりました。

区議会だより 令和3年第4回定例会号 ご参照ください ↓

なかの区議会_269_07_3校.eca (kugikai-nakano.jp)

 

 

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